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名古屋高等裁判所 昭和47年(行コ)19号 判決

名古屋市中区栄三丁目一九番一五号

控訴人

丸為株式会社

右代表者代表取締役

広瀬隆彦

右訴訟代理人弁護士

服部豊

名古屋市中区三の丸三丁目三の二

被控訴人

名古屋中税務署長

福脇茂

右指定代理人

山田巌

山本忠範

小出正行

斉藤清光

森茂伸

右当事者間の昭和四七年(行コ)第一九号法人税更正決定取消控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「(一)原判決を取消す。(二)被控訴人が(1)昭和四三年三月三〇日付で控訴人の昭和三九年七月二〇から昭和四〇年七月一九日までの事業年度分法人税に関してなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定、(2)昭和四四年四月三〇日付で(イ)控訴人の昭和四〇年七月二〇日から昭和四一年七月一九日までの事業年度分法人税に関してなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定、(ロ)控訴人の昭和四一年七月二〇日から昭和四二年七月一九日までの事業年度分法人税に関してなした更正処分、(ハ)昭和四七年五月一一日付で同事業年度分法人税に関してなした過少申告加算税の賦課決定はいずれもこれを取消す。(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および認否は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(ただし、原判決九枚目表六行目の「兼務部長」を「業務部長」、同一一枚目表八行目の「賞与として」を「賞与とも」、同一三枚目表一行目の「三三〇、〇〇〇」を「三三〇、三〇〇」とそれぞれ訂正する。)

理由

一、 控訴人が名古屋市中区矢場町一の四四番地において呉服類の卸売業を営むものであること、被控訴人が昭和四三年三月三〇日付で、控訴人の昭和三九年七月一九日から昭和四〇年七月二〇日までの事業年度(以下昭和三九年度という)分法人税について所得金額を金二、五九四万五、五六九円、法人税額を金九〇五万二、〇〇〇円と再更正し、過少申告加算税額を金三万三、七〇〇円と決定し、いずれも昭和四四年四月三〇日付で控訴人の昭和四〇年七月二〇日から昭和四一年七月一九日までの事業年度(以下昭和四〇年度という)分法人税について所得金額を金三、七七四万七、七六六円、法人税額を金一、二九五万九、三〇〇円と再々更正し、新たに過少申告加算税額を金八、六〇〇円と賦課決定し、控訴人の昭和四一年七月二〇日から昭和四二年七月一九日までの事業年度(以下昭和四一年度という)分について所得金額を金五、二二九万二、一一三円、法人税額を金一、七五四万七、八〇〇円と再更正し、昭和四七年五月一一日控訴人の昭和四二年度分法人税につき過少申告加算税額を金五万三、〇〇〇円と賦課決定し、それぞれこれを右各日付の日に控訴人に対し通知したこと、昭和三九年ないし昭和四一年度において訴外丹下一男(以下丹下という)が控訴人の取締役業務部長、訴外広瀬智彦(以下広瀬という)が取締役総務部長の地位にあつて、法人税法第三五条第二項にいう「使用人としての職務を有する役員」すなわちいわゆる使用人兼務役員に該当したこと、被控訴人主張のとおり、控訴人が、他の使用人に対する賞与の支給時期に、同項所定の損金経理をした賞与として、丹下に対し昭和三九年度において金二七〇万円、昭和四〇年度において金二五五万円、昭和四一年度において金二八五万円、広瀬に対し昭和三九年度において金一三五万円、昭和四〇年度において金一三七万五、〇〇〇円、昭和四一年度において金一六五万円をそれぞれ支給したことならびに右丹下、広瀬両名に対し支給した賞与が全額損金となるか被控訴人が否認したその余の金額が損金となるかの点を除き、控訴人の昭和三九ないし昭和四一年度分の所得金額および法人税額が被控訴人主張のとおりとなることはいずれも当事者間に争いがない。

二、 法人税法第三五条によれば、法人がその役員に対して支給する賞与の額は、法人の所得計算上、損金の額に算入されない(同条第一項)のであるが、法人が使用人兼務役員に対し賞与を他の使用人に対する賞与の支給時期に支給する場合において、これにつき損金経理をしたときは、その損金経理をした金額のうち使用人としての職務に対する相当な額として政令で定める金額に達するまでの金額は損金の額に算入する(同条第二項)ものであり、同法施行令第七〇条は、右政令で定める金額を、当該法人の他の使用人に対する賞与の支給状況等に照らし使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与として相当であると認められる額と規定する。

三、 そこで、丹下、広瀬に対し支給された賞与のうち業務、総務各部長としての職務に対する賞与として相当な金額がいくらであるかにつき検討する。

成立に争いのない乙第一、第二号証、原審証人佐藤錠一の証言により成立の認められる乙第一九号証に右証言、原審証人甚目米一の証言および弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人においては昭和四〇年七月二〇日社員給与規程が施行されるまでは、給与に関する規定はなかつたこと、右給与規程中の本俸表は昭和四一年七月二〇日改訂施行されたが、その前後を通じ本俸表には八等級(雇見習)から一等級(部長心得)までしか設定されてなく、部長職については規定を欠除していること(部長職について給与規定を欠いていることは当事者間に争いがない)、控訴人において部長の地位にあるものは丹下、広瀬の両名のみであり、本件係争年度以前においても役員でなく部長の地位に就任した者はいなかつたこと、ならびに使用人に対する賞与の支給基準は特に設定されていないことがそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。

しかして、前掲各証拠に、原審証人丹下一男、同広瀬智彦の各証言および弁論の全趣旨を併せ考えれば、控訴人は昭和四〇年に部長、部長心得、次長、課長補佐等と職制を整備したもので、それ以前は職制としては部長、主任のみであつたこと、右職制の整備に併い訴外木股智宥(以下本股という)、同後藤某が課長に就任したが、本股の方が入社年次が古く、かつ給与および賞与支給額も多かつたこと、本件各係争年度中には部長心得、次長に就任した者はいなかつたこと、なお、丹下は大正一〇年生れで、昭和一〇年に控訴人の前身である個人経営の広瀬商店に雇われ、昭和二八年控訴人が設立されたその頃から部長に就任し、昭和三六年項からは広瀬と分担して仕入れ業務に従事してきたこと、広瀬は昭和七年生れで、昭和三一年大学経済学部を卒業、昭和三三年控訴人に入社、昭和三七年総務部長に就任し、経理を除いた間接部門および仕入れ業務を担当してきたことならびに木股は昭和一〇年生れで、昭和二六年に右広瀬商店に雇入れられたことがそれぞれ認められ、これを左右するに足る証拠はない。

右事実よりすれば、木股に対する賞与の支給状況を参照として、丹下および広瀬の使用人としての職務に対する賞与として相当な金額すなわち適正使用人分賞与額を認定するのが相当というべきである。

四、 昭和三九年一二月ないし昭和四二年七月までの間の各七月、一二月に支給された給与および賞与の額が被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、また、昭和四〇年一二月、昭和四一年七月および同年一二月支給分を除く、その余の右賞与額の給与額に対する倍率がいずれも被控訴人主張のとおりであることは算数上明らかであり、前掲乙第一九号証に原審証人佐藤錠一の証言を併せ考えれば、昭和四〇年一二月、昭和四一年七月および同年一二月各支給の木股に対する賞与額の算出根拠が被控訴人主張のとおりであることが認められ、これに対する証拠はない。

五、 ところで、成立に争いのない甲第五ないし第七号証、乙第二〇、第二三号証、原審証人甚目米一の証言により成立の認められる甲第一一号証によれば、給与として丹下は昭和三九年一二月には金二二万円、昭和四〇年七月、同年一二月、昭和四一年七月および同年一二月にはいずれも金二六万円、昭和四二年七月には金三〇万円、広瀬は昭和三九年七月には金一〇万円、昭和四〇年七月、同年一二月および昭和四一年七月にはいずれも金一五万円、昭和四二年七月には金二〇万円の支給を受けていたことが認められるが、右各証拠に成立に争いのない乙第二五ないし第三〇号証、前掲乙第一、第二号証、原審証人広瀬智彦の証言を併せ考えれば、丹下、広瀬の両名はいずれも控訴人の取締役としての業務を実際に執行していたこと、右両名を除く控訴人の従業員に対する給与が毎年定期的に昇給しているのに対し右両名の給与は使用人兼務役員でない他の役員と同一の時期に不定期的に昇給していることが認められ、これに前示給与規程に部長職についての規定を欠くことを綜合すれば、右両名に対する給与には役員としての業務執行に対する報酬が含まれていると認定できるから、これをもつて使用人としての職務に対する賞与算定の基礎とするのは不相当であることが明らかである。

六、 被控訴人は、丹下、広瀬の適正使用人分賞与算定の基礎となる給与(以下適正給与という)として、丹下につき昭和三九年一二月は金三万九、〇〇〇円、昭和四〇年七月は金四万〇、一〇〇円、同年一二月は金四万一、二〇〇円、昭和四一年七月は金四万二、三〇〇円、同年一二月は金四万四、〇〇〇円および昭和四二年七月は金四万五、一〇〇円、広瀬につき昭和三九年一二月は金三万六、八〇〇円、昭和四〇年七月は金三万七、九〇〇円、同年一二月は金三万九、〇〇〇円、昭和四一年七月は金四万〇、一〇〇円、同年一二月は金四万一、八〇〇円および昭和四二年七月は金四万二、九〇〇円であると主張するが、その算出の根拠は前掲乙第一、第二、第一九号証、原審証人佐藤錠一の証言および弁論の全趣旨によれば、次のとおりであることが認められる。すなわち、

前示のように控訴人社員給与規程中の本俸表において、改訂前後を通じて本俸は八等級(雇見習)から一等級(部長心得)までの八段階の等級にわけられたうえ、各等級毎に一号から三〇号までに区分されて格付されているが、三等級(課長)七号俸が二等級(次長)一号俸(ただし、改訂前の本俸表では三等級六号俸の額から金三〇〇円を差し引いた金額が二等級一号俸)、二等級七号俸が一等級一号俸にそれぞれ相当するようになつており、また三等級の号俸差は金八〇〇円、二等級のそれは金九〇〇円、一等級のそれは金一、〇〇〇円と等級が一級上る毎に金一〇〇円宛増すようになつている。そこで、部長職の等級としての等級を、一等級の七号をもつて特級の一号として、一等級の号俸差額金一、〇〇〇円に金一〇〇円を加えた金一、一〇〇円をもつて特級の号俸差として設定して、昭和四〇年七月においては特級一号俸を金三万九、〇〇〇円、三号俸を金四万一、二〇〇円と、昭和四一年七月前示本俸表の改訂後は特級一号俸を金四万〇、七〇〇円、二号俸を金四万一、八〇〇円、四号俸を金四万四、〇〇〇円とそれぞれ求め、他方、木股の前示給与額を前示改訂前の本俸表に当て嵌めると三等級三号俸に、改訂後の本俸表に当て嵌めると三等級四号俸にそれぞれ該当するところから、丹下の適正給与を特級で木股と同一の号俸に、広瀬のそれを丹下より二号俸下に位置づけた。

それから、昭和三九年一二月については、前示本俸表の構成に則つて、木股の本俸額金二万三、三〇〇円を昭和四〇年七月と同じく三等級三号俸とすると、それに三等級の三号俸差の金額金二、四〇〇円を加えたものから金三〇〇円を差し引いた金二万五、四〇〇円が二等級一号俸となり、それに二等級の六号俸差の金五、四〇〇円を加えた金三万〇、八〇〇円が一等級一号俸となり、それに一等級の六号俸差の金六、〇〇〇円を加えた金三万六、八〇〇円が特級一号俸、それに特級の二号俸差金二、二〇〇円を加えた金三万九、〇〇〇円が特級三号俸となるので、丹下の適正給与を金三万九、〇〇〇円、広瀬のそれを金三万六、八〇〇円に求めた。

右のように、控訴人の本俸表に基づき部長職の等級を設定したこと、前述したところよりして広瀬より部長として上位の号俸に位置づける丹下を、課長として最上位にある木股と同じ号俸に位置づけ、広瀬を丹下より二号俸下に位置づけたことは必ずしも不合理ということはできず、相当として是認できる。

七、 そのようにして求め得た丹下、広瀬の各適正給与額に、前示木股の昭和三九年一二月、昭和四〇年七月および昭和四二年七月における賞与額の給与額に対する倍率を乗じた金額、すなわち、丹下については金五〇万三、一〇〇円、金四六万一、一五〇円および金四二万八、四五〇円が、広瀬については金四七万四、七二〇円、金四三万五、八五〇円および金四〇万七、五五〇円がそれぞれ順次昭和三九年一二月、昭和四〇年七月、昭和四二年七月における適正使用人分賞与額というべきである。

また、前掲乙第一九号証に原審証人佐藤錠一の証言を併せ考えれば、訴外日比野薫は控訴人の使用人であるが、課長補佐として前示本俸表上四等級に格付けされていたこと、昭和四〇年一二月において同人の役付手当は木股のそれより金二万円下廻る額であつたことおよび同月から昭和四一年一二月までの間において課長、部長とも家族手当は金二万円であつたことがそれぞれ認められ、これに反する証拠はない。

右事実から、昭和四〇年一二月、昭和四一年七月および同年一二月それぞれ木股に支給された賞与の前示算出根拠となつた役付手当に相当する丹下、広瀬の部長としてのそれを金一六万円と設定するのは、不合理とはいえず、相当というべきであり、前示算出根拠に準拠して計算した、丹下については金三三万三、六〇〇円、金三三万六、九〇〇円および金三七万四、〇〇〇円が、広瀬については金三二万七、〇〇〇円、金三三万〇、三〇〇円および金三六万六、三〇〇円がそれぞれ順次昭和四〇年一二月、昭和四一年七月、同年一二月における適正使用人分賞与額というべきである。

本件において、右丹下、広瀬の各適正使用人分賞与額を不相当とする事情を認めるに足る証拠はない。

八、 そうとすると、控訴人の本件各係争年度における所得の計算において損金として許容される使用人兼務役員に対する賞与の額は被控訴人主張のとおりとなるので、結局、前示被控訴人の各再更正、再々更正処分にはいずれも控訴人主張のような違法はないといわなければならない。

九、 そうして、控訴人が昭和三九年度分について所得金額を金二、三八七万六、四五二円、法人税額を金八四六万五、〇五〇円とする、昭和四〇年度分につき所得金額を金三、四五三万五、三〇三円、法人税額を金一、一九六万〇、四一五円とするおよび昭和四一年度分につき所得金額を金四、九二六万一、二五二円、法人税額を金一、六七五万五、一七〇円とする確定申告書をそれぞれ被控訴人に提出したこと、被控訴人が、昭和四〇年度分につき、昭和四三年三月三〇日控訴人に対し、所得金額金三、七二六万五、四〇六円、法人税額金一、二七八万五、九〇〇円と再更正し、過少申告加算税額を金四万九、〇〇〇円と賦課決定して通知したことはいずれも当事者間に争いがないから、昭和三九年度分につき、前示再更正処分により納付すべきこととなつた法人税の増加分が少なくとも金六七万五、二〇〇円となり、それに対する国税通則法第六六条第一項所定の一〇〇の五の割合を乗じた過少申告加算税額が金三万三、七〇〇円(一〇〇円未満切り捨て、以下同じ)となること、昭和四〇年度分につき、前示再々更正処分により納付すべきこととなつた法人税の増加分が金一七万三、四〇〇円となり、それに対する右と同一割合による過少申告加算税額が金八、六〇〇円となることならびに昭和四一年度分につき、前示再更正処分により納付すべきこととなつた法人税の増加分が金一〇六万〇、六〇〇円となり、これに対する右と同一割合による過少申告加算税額が金五万三、〇〇〇円となることは算数上明らかである。

したがつて、右のとおり被控訴人が控訴人に対し過少申告加算税を賦課決定したことにはやはりいずれも控訴人主張のような違法はないといわなければならない。

一〇、叙上のとおり、控訴人の昭和三九ないし昭和四一年度分法人税につき被控訴人がなした各再更正、再々更正および過少申告加算税賦課処分にはいずれもこれを取消すべき瑕疵は存在しないから、控訴人の請求はすべて理由がなく失当として棄却を免れない。

よつて、これと同趣旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 布谷憲治 裁判官 豊島利夫 裁判官福田健次は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 布谷憲治)

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